辛いシシトウが出来る本当の理由
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トウガラシと交雑しても辛くはならない
「シシトウはトウガラシと交雑すると辛くなる」という事をよく耳にしますが、実は正しくありません。通常、受粉後に「花粉親」の形質が現れるのは、交雑した種子から成長した植物(次の世代の果実)。つまりシシトウ(甘味品種)のめしべにトウガラシ(辛味品種)の花粉が付いてできた当代果実にはトウガラシの辛味は現れない、ということです。その逆にトウガラシ(辛味品種)のめしべにピーマンやシシトウ(甘味品種)の花粉と交雑してできたトウガラシの当代果実が辛味を失う事もありません。(当代果実の種皮や果皮に花粉親の形質が現れる事をメタキセニア現象と言うが、シシトウとトウガラシを扱った研究ではこのメタキセニア現象によってシシトウは辛くならないと結論付けられている。) つまりシシトウ(甘味品種)とトウガラシ(辛味品種)を隣に植えて交雑しても、当代果実では辛いシシトウにはならないのです。ただし交雑してできた種から栽培した次の世代の果実は辛くなるかもしれません。なぜ辛いシシトウが出来るのか
トウガラシやシシトウの辛味成分はカプサイシンですが、元々シシトウはこのカプサイシンを合成する機能を持っています。そしてシシトウが辛味を持つ原因は、栽培時の高温・乾燥・水分ストレスによって起こり易くなる「単為結果(種無し果)」で、果実内のカプサイシン量が増加するためという報告があります。 その理由としてシシトウの中でカプサイシンを合成する為の材料物質は種皮を作る材料と共通であり、種子が作られると種皮の生成に材料が優先されるため、通常受粉して種子が作られるとカプサイシン生成よりも種皮の生成が優先されカプサイシンの生成は行われない。しかし栽培中のストレスによって「単為結果(種無し果)」が起こると果実内に作られる種子の数が少なくなり、余った材料でカプサイシン生成が行われるため、果実内にカプサイシンを含む辛いシシトウが出来上がるのです。 シシトウの「辛味の有無」と「種子の数」を調べた実験では、辛味を持たないシシトウの種子数は10~200粒以上に対し、辛味を持つシシトウの種子数は3~78粒であったとされており、種子の数が少ない果実が必ずしも辛い訳ではないが、辛味を持つシシトウは種子の数が少ない傾向にあった、とされています。シシトウだけ栽培していても辛くなることがある
上記からすると、辛味品種から隔離した環境でシシトウ(甘味品種)だけを栽培していても、その栽培環境によっては辛いシシトウの果実が発生する可能性があるという事になります。 実際に行われた実験があり、植物ホルモンを用いて意図的にシシトウを単為結果させ、全く種子の無い果実を作ったところ、全て辛味を持つシシトウ果実が出来たという結果になったそうです。なお、この実験は辛味品種のトウガラシとカプサイシンを合成する能力を持たないピーマンにも行われました。結果、辛味品種のトウガラシは通常よりもさらに辛味の強いトウガラシになり、ピーマンは単為結果した果実でもカプサイシンは作られず辛味を発生する事はありませんでした。この実験により栽培環境によって辛味を持つシシトウが出現するという事が分かりました。まとめ
- シシトウ(甘味品種)はトウガラシ(辛味品種)と交雑しても、当代果実はトウガラシ(辛味品種)の形質を受けた辛いシシトウにならない。(メタキセニア現象は起こらない)
- シシトウが辛くなるのは高温・乾燥・水分ストレスで起こり易くなる「単為結果」によって果実内に作られる種子が少なくなるため。※カプサイシンを合成する機能を持った品種でのみ発生する。
- 甘味品種と辛味品種が交雑した果実の種子から育てた果実(雑種)の場合は、辛味のあるピーマンやシシトウ(のような雑種)や、辛みが少ないトウガラシ(のような雑種)になるかもしれない(トウガラシの辛味成分を作る遺伝情報は劣性遺伝)。